学会紹介

会長挨拶

福田慎一

今日の経済活動において、金融取引は欠くべからざるものです。ただ、金融取引がいかなる付加価値を経済にもたらすかは、一見分かりにくい面が少なくありません。これは、モノ作りを行う製造業や食料を生産する農業などとは異なり、金融業という産業が単独で付加価値を生み出すことが少ないからです。しかし、今日、経済活動の相互依存性は飛躍的に高まっており、経済主体間の取引がよりスムーズに行われるための機能は極めて重要となっています。そうしたなかで、金融業は、同時点あるいは異時点間のスムーズかつ効率的な取引を可能にすることによって、経済全体の付加価値を高めているものといえます。金融取引は、人体にたとえると血液循環のようなものであり、そこで問題が生ずるとたちまち経済活動は停滞してしまいます。金融取引が正常に機能することは、経済が持続的な成長をする上での重要な条件の1つといえます。日本金融学会は、金融に関する唯一の総合的な学会として、このような金融の諸問題を多角的に議論する場を目指してきました。

もっとも、経済の金融的側面を学び研究するには、関連する経済理論を修得するだけでなく、金融の歴史と制度を学ぶことも必要です。これは、金融市場では、市場メカニズムが不完全な形でしか機能しないなか、歴史的・制度的な側面がしばしば重要な役割を果たすからです。このため、金融の分野では、狭い意味での研究者だけでなく、実務家や政策当局者の方々を交えて議論を深めていくことが必要といえます。日本金融学会は、そのような機会を提供する学会でもあります。日本金融学会の全国大会や諸部会には研究者だけでなく、金融実務に携わる方々も、研究発表者や討論者あるいはパネリストとして、参加されています。特別講演には、著名な研究者はもちろんのこと、歴代の日本銀行総裁や金融庁長官など政策当局者の方々もお招きしてきました。日本金融学会は、日本の金融に関する産官学交流を提供している貴重な場となっているのです。

日本金融学会は、2つの学会誌を刊行しています。『金融経済研究』は、投稿論文を中心に書評や展望論文などを掲載しています。日本語で書かれた金融経済学に関する論文のハイレベルなレフェリー誌として長い間、日本の学界のなかで独自の位置を占めてきました。Japanese Journal of Monetary and Financial Economicsは、英語論文を対象としたレフェリー制のオンラインジャーナルで、日本金融学会の比較的新しい雑誌です。短期間での掲載判定を基本方針としており、採用が決定するとすぐにオンラインで掲載されます。貴重でタイムリーな研究成果を公表していただく場として、これら両学会誌への会員のみなさまの論文投稿をお待ちしております。

日本経済は、長い間、低インフレ・低金利の状態が続いてきました。しかし、足元では世界的にインフレが顕在化し、各国で利上げが始まっています。日本の金融市場も、それに伴って今後大きな転機を迎える可能性が高まってきているといえます。また、デジタルトランスフォーメーションの進展で金融業では、フィンテックという新しいタイプのビジネスモデルが急速に広がっています。近年の環境問題に対する関心の高まりから、金融の分野でも、企業の環境問題に対する施策などを考慮した上で行動が問われるようになっています。これらのダイナミックな変革の実態に対応しながら、これから起こるであろう金融の諸問題への解決に向けて、今後も、日本金融学会は研究活動を通じて経済社会に貢献する学会であり続けたいと願っております。日本金融学会は、日本の経済学関係の学会の中では最も歴史が長い学会の一つです。今後とも、皆様のご支援ご鞭撻の程よろしくお願い致します。